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ちぶねNOW

2021.04.28

腎性貧血を治療するHIF-PH阻害薬

腎性貧血を治療するHIF-PH(低酸素誘導因子プロリン水酸化酵素)阻害薬

ここがポイント

  • 腎臓の機能と慢性腎臓病

    慢性腎臓病の治療は腎臓に負担のかかる状態を減らすことが基本の治療です。

  • 腎性貧血とエリスロポエチン

    これまでの腎性貧血の治療はエリスロポエチンの注射投与ですが、作用時間が短く、痛みを伴うなど問題があります。

  • エリスロポエチンと低酸素誘導因子

    HIF(低酸素誘導因子)という物質が発見されたことにより・・・

  • 新しい腎性貧血治療薬

    新しい治療薬にこれまでの注射薬に内服薬も加わり治療の選択肢が増えました。

目次

1腎臓の機能と慢性腎臓病

腎臓の機能と慢性腎臓病

私たちは日々様々な食物を食べたり飲んだりしています。摂取した食物は腸で消化され、栄養分が体内に取り込まれています。腎臓はその栄養分が代謝された後の老廃物を尿として排出する役目を担っています。糖尿病や高血圧症などに長期間罹患していると、徐々に腎機能は低下し、老廃物が排出できなくなっていきます。このような状態を慢性腎臓病といいます。

慢性腎臓病自体を治療する方法はなく、血圧や血糖値の管理、食事中のたんぱく質の制限など、腎臓に負担のかかる状態を減らすことが基本の治療となります。

2腎性貧血とエリスロポエチン

腎性貧血とエリスロポエチン

腎臓は老廃物の排出以外にも、体内の水分や電解質のバランスをとったり、血圧を調整したり、血液を作るホルモン(エリスロポエチン)を分泌したりしています。慢性腎臓病になるとこれらの機能も低下し、エリスロポエチンが減少することにより貧血が進行していきます。この状態を腎性貧血といいます。

エリスロポエチンは20年以上前より注射薬として使用されていますが、作用時間が短く1~2週間ごとに投与する必要がありました。近年作用時間が長い薬剤も使用されるようになってきましたが、これまで同様に注射で投与する必要があり、投与時に痛みを伴うなどの問題があります。

3エリスロポエチンと低酸素誘導因子

エリスロポエチンと低酸素誘導因子

エリスロポエチンは体内の酸素濃度が低下しても分泌されることが知られています。この反応を制御する物質が発見され、HIF(低酸素誘導因子)と名付けられました。体内に酸素が十分あるときにはこの物質は分解酵素(HIF-PH)により速やかに分解されますが、この酵素を阻害する薬剤を投与することにより、体内の酸素量が保たれている状態でもエリスロポエチンの産生が促進されることが分かりました。

この仕組みを解明されたジョンズ・ホプキンズ大学のセメンザ教授、オックスフォード大学のラトクリフ教授、ハーバード大学のケーリン教授が2019年ノーベル生理学・医学賞を受賞されました。

4新しい腎性貧血治療薬

新しい腎性貧血治療薬

このHIF-PHを阻害する酵素が2019年より処方できるようになりました。

日本ではロキサデュスタット、ダプロデュスタット、バダデュスタット、エナロデュスタット、モリデュスタットの5剤が、当院ではロキサデュスタット、ダプロデュスタットの2剤が処方可能となっています。

この薬剤の特徴は、エリスロポエチン製剤のような注射薬ではなく、内服薬であることです。この治療薬が使用可能となったことにより、エリスロポエチン製剤では効果不十分だった患者さんや、注射への抵抗感が強い患者さんに対し、有力な治療の選択肢の一つとして提案できるものと考えています。

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