上部消化管疾患
Upper gastrointestinal tract desease
上部消化管(食道・胃・十二指腸)に発生する疾患としては、胃がん・食道がんなどの悪性腫瘍や、ヘリコバクターピロリ感染を原因とする胃・十二指腸潰瘍、最近増加傾向にある逆流性食道炎などの良性疾患があります。またMALTリンパ腫といった希な疾患や、内視鏡や透視検査では器質的異常を認めないが腹痛・腹部不快感などを生じる機能性胃腸症(機能性ディスペプシア)の診断治療も行っています。最近では食道pH・インピーダンス測定も行い、胃食道逆流症の診断・治療にも取り組んでいます。
胃潰瘍・十二指腸潰瘍
Gastric ulcer、Duodenal ulcer
胃や十二指腸などの消化管壁が傷ついた状態を「潰瘍」といいます。潰瘍が深くなり壁に孔があいた状態を消化管穿孔といい、重篤な腹膜炎となります。症状には、みぞおちの痛み、吐き気、胸やけなどがあり、潰瘍部位から出血することで吐血や黒色便(タール便)を認めることがあります。
潰瘍の原因には、ヘリコバクター・ピロリ菌(Helicobactor Pylori : 以下ピロリ菌)が大きく関与し、ストレス、暴飲暴食、鎮痛剤などの薬剤の影響もあります。潰瘍の診断には内視鏡検査もしくは胃透視検査(バリウム検査)がありますが、粘膜生検やピロリ菌検査が可能な内視鏡検査が優れています。治療は制酸剤や粘膜保護剤の内服治療が基本で、内視鏡検査で潰瘍からの出血を認めた場合は止血処置や入院加療が必要となります。
症例
ヘリコバクターピロリ菌について
■ピロリ菌とは
ピロリ菌は胃粘膜に寄生し、ウレアーゼ酵素によりアンモニアを発生し胃酸を中和するため、強酸環境での生息が可能です。幼少時に口から感染して胃粘膜に慢性炎症を起こします。ピロリ菌の診断には胃の粘膜を採取して行う迅速ウレアーゼ検査や血液検査の血清抗体検査、尿中・便中抗原検査、尿素呼気試験などがあります。
■ピロリ菌と除菌療法
ピロリ菌は胃・十二指腸潰瘍の原因菌として発見されましたが、今では慢性萎縮性胃炎・胃がんの発生に関与していることがわかっています。そのため胃・十二指腸潰瘍や慢性萎縮性胃炎を内視鏡にて診断された場合、ピロリ菌感染があれば除菌療法が保険診療として認められています。
■除菌療法について
ピロリ除菌療法は胃酸分泌抑制剤1種類と抗生剤2種類の3剤を1週間服用します(一次除菌療法)。一次除菌療法の成功率は70〜80%のため、除菌療法後約8週間空けてから尿素呼気試験などにて除菌ができたかどうかの判定を行います。除菌が出来ていない場合は抗生剤の種類を変えて二次除菌療法を行います。
■除菌後の胃がん発生率と定期検査
ピロリ菌の除菌にて胃がんの発生率は約30%ほどに抑えられるとされています。しかし除菌後も胃がんと診断される方もおられ、診断時期が5年以内に多いため、除菌後5年間は年1回程度の内視鏡検査をお勧めしています。6年目以降も胃がん検診などの制度を利用して2年に1回程度の定期的な内視鏡検査を受けていただくことが大切です。
胃食道逆流症/逆流性食道炎
Gastro Esopageal Refulx Desease : GERD
胃内容物が食道に逆流し胃酸により食道粘膜が障害を受ける疾患です。症状としては胸焼けやみぞおちの痛みが代表的ですが、喉の違和感や、しつこい咳を生じる場合もあります。内視鏡検査で食道粘膜障害の程度や逆流の原因を診断し適切な治療を選択します。治療は胃酸分泌を抑える制酸剤や胃腸運動機能改善薬の内服が基本です。内服治療以外にも、胃食道逆流を生じやすくする生活パターンの改善が重要です。
■生活上の注意点
- 高脂肪食、柑橘類・菓子類、炭酸飲料の摂取は控える
- 食べ過ぎに注意し、腹八分目に抑える
- 食後にすぐ横になることは控え、30分~1時間は体を起こしておく
- 腹圧がかかるような動作や前屈みになる姿勢は食後は控える
- 寝る直前に食事を摂ることは控える
症例
胃食道逆流症の中で、内視鏡検査で食道粘膜の障害を認めるものを逆流性食道炎といいます。逆流性食道炎は粘膜障害の程度によりA〜Dまで分類されており、Dが最も重症です。内視鏡検査で食道粘膜の障害を認めない非びらん性逆流性食道炎(NERD)も注目されています。
胃がん
Gastric cancer
日本人の死因となる代表的な悪性腫瘍でしたが、検診や内視鏡検査の普及により早期の段階で発見される場合も多く、早期の段階であれば根治も可能です。また進行した状態でも外科手術や化学療法の発達により治療成績は改善しています。当科では早期がんに対して内視鏡的粘膜下層剥離術(ESD)を行っています。進行がんに対しては外科手術や化学療法を行っています。
■症状
早期がんの場合は無症状の場合が多く、進行がんになると腹痛、食事のつかえる感じ、吐き気、体重減少、黒色便などがみられます。そのため早期診断のためには、症状がない時から胃がん検診などを利用して積極的に検査を受けることが重要です。
■診断・検査
胃がんの診断は、内視鏡検査による観察とその際に行う組織検査(生検)で行います。胃がん検診や人間ドックの胃透視検査(バリウム検査)で異常が見つかった場合は、精密検査として内視鏡検査を行います。組織検査で確定診断がつけば、がんの進行度(ステージ)を決定するため、CT検査や超音波内視鏡検査などを行います。胃がん治療ガイドラインに準じて内視鏡治療、外科的治療、化学療法を行います。
症例
Stage1 早期胃がんに対する内視鏡治療
早期胃がんに対する内視鏡的治療としては、内視鏡的粘膜下層剥離術(ESD)が標準治療となっています。方法は病変の周囲をマーキングし、病変の粘膜下に薬剤を注入して(局注)粘膜を浮かせ、電気メスで剥離していきます。剥離した部位は粘膜が欠損した潰瘍となるため制酸剤の投与や食事療法が必要となり、術後の出血を来しやすい期間は迅速な対応ができるよう入院での経過観察としています。
■内視鏡的粘膜下層剥離術(ESD)の方法
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切除範囲を決めるため病変周囲にマーキングします。
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マーキング部の粘膜下に液体(局注液)を注入し切開部を盛り上がらせます。
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マーキングの外側の粘膜を切開していきます。
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病変の粘膜下に局注を追加しながら、粘膜を剥離していきます。
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病変を含んだ粘膜全体を剥離して手術は終了です。粘膜を剥離した部位は、人工的な潰瘍となります。
■症例
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胃前庭部に早期胃がんを認めます。
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病変周囲にマーキングをします。
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粘膜切開を行っていきます。
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全周の切開が完了し、粘膜剥離を行っていきます。
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粘膜下層の剥離を進め、粘膜が剥がれていきます。
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粘膜剥離を終え、切除終了です。
Stage4 進行胃がんに対する化学療法
内視鏡治療や外科手術での治療が困難な進行胃がんに対しては、患者様のご希望や体力に応じて化学療法を行います。化学療法は従来の抗がん剤に加えて、分子標的薬や免疫チェックポイント阻害薬などの薬剤を使用します。これら薬剤には種々の副作用を伴ったり、患者さん個人の反応性が異なったりするため、初回導入は入院のうえで行い、その後の治療は外来化学療法室で行っていきます。化学療法の副作用やがんの進行による様々な身体的症状(骨や多臓器への転移による痛み、吐き気など)や精神的苦痛に対して、治療初期から緩和ケアチームと連携し疼痛および苦痛の軽減を図ります。