優しくて強い千船病院の「お助けマン」
「私たちは患者さんのお助けマンですよ」
千船病院で「看護助手」として働く坂東眞由美は、入院したての患者に自身の役割をそう紹介する。
坂東ら看護助手は医療行為は行わず、看護師の指示のもと、患者の介助や身の回りの世話を行う。患者にとっては最も身近な存在ともいえる。
「闘病している患者さんたちの癒やしでありたいと思っています」
実は看護師と違って看護助手には特別な資格は必要がない。それでも坂東はホームヘルパー2級を取得、患者の食事介助やシャワー浴の補助などに役立てている。さらには、ヘルパーの年度毎研修でケア知識をブラッシュアップ、気持ちのいい洗髪方法を理容師の息子に学んだりと、常に技術向上を怠らない。さらに、患者にとって医師や看護師に言いだしにくいことを話せる相手でありたいと考えている。
「患者さんから聞いたことをワンクッションおいて先生や看護師さんに橋渡しするのも大切な役目だと考えています」
皆から頼られる坂東の姿が、千船病院から消えた時期がある。自身にがんが見つかり、別の病院に入院したのだ。一通りのがん治療を終え退院したとき、自分の体を支えるのも大変な状態だったという。まず復帰のために自転車で体を鍛え直した。ところが、職場復帰後しばらくして新型コロナウイルスが流行。折しも坂東の所属病棟が感染患者を受け入れることになった。当時、新型コロナウイルスに関する情報はなく、健康な者であっても怯んだものだ。ましてや、坂東はがん治療から復帰したばかり。周囲は「別の病棟に移ったら?」と心配したという。しかし、坂東はコロナ病棟で働くことを選んだ。
「不安がなかったと言ったら嘘になります。でも、私の入院中やその前後にたくさん助けてくれた同じ病棟のメンバーと一緒に戦いたいと思った。私だけ逃げちゃいけないなと」
「完全防御ともいえる防御服を着るのだから、最も安全なはず」と自分に言い聞かせ、戦場のような職場でひたむきに患者と向き合う日々は3年続いている。来年迎える定年でやっと一息つくのかと思いきや「まだまだ現役でいたい」と定年後の再雇用を視野に入れている。そんな坂東のバイタリティの源は何なのだろう。
「私がやらんと誰がやるねん、って気持ちかな。あと、〝坂東さんじゃなきゃ”って言ってくれる患者さんにパワーをもらってるんですよ」
取材・文 今中有紀 写真 奥田真也